お疲れ様です。
本日は、久々に怪談を投稿したいと思います(育児無関係な上に、季節外れてますが…)。
秋は紅葉狩りやキノコ狩りの季節ですが、山に入る際にはクマやスズメバチはもちろんのこと、その他にも注意しなければならないモノはたくさん住んでいるようです。
山を侮るでねえぞ—。
Yさんの親戚は山を所有していますが、高齢ということもあり、管理はほとんどYさんが行っています。
その見返りと言っていいのかは分かりませんが、山に生えている山菜やキノコなどは自由に採っていいと言われていました。
特に、秋になると僅かではあるものの松茸が採れるということもあり、Yさんは喜んで山の管理を行っていました。
ある年の秋のこと。例年のように、管理業務を兼ねつつキノコ狩りをしていたYさん。
この日はお目当ての松茸も採れず、今年は不作かなと思いつつ斜面に腰を下ろして休憩していました。
すると、視線の先の木々の間に、山に似つかわしくない大きな人工物が転がっているのが見えました。
テレビです。
テレビといっても最近のものではなく、ひと昔前のブラウン管テレビのようです。
不法投棄かあ…Yさんは渋々腰を上げ、テレビの方に近寄ります。
国道から比較的近い山ということもあり、これまでもジュースの缶やペットボトル、空の弁当容器などが捨てられていることはありましたが、こういった粗大ごみは初めてです。
不法投棄は、捨て主が不明の場合、土地の所有者が処分しなければなりません。
所有者は親戚ではあるものの、実質山の管理はYさんが行っているため、当然このテレビもYさんが処分手続きをしなければならないでしょう。
処理が面倒臭そうだなと途方に暮れつつテレビを眺めていると、ふいにテレビが点滅し、ある映像が映し出されました。
男性二人が大きなテレビを抱え山道を登っているところを、3mほど後ろから撮影している映像です。
ただ、当然電源などあるはずもなく、普通に考えればありえない、いきなりの出来事に驚愕するYさんをよそに、テレビは映像を流し続けます。
古めかしいテレビの割に、流れてくる映像は鮮明ですが、足音などは聞こえてこないことから、音声機能は壊れているようです。
彼らは二人がかりでテレビを抱えたまま歩き続けていましたが、ふいに立ち止まり、周囲を確認し始めました。
映像の撮影者も立ち止まり、一定の距離を保ったまま撮影を続けています。
二人は撮影者の方にも目を向けましたが、特段撮られていることを気に掛ける様子はありません。
そして次の瞬間、二人は抱えていたテレビを放り投げました。
よく見ると、投げられたテレビは、今まさにこの映像を流しているテレビと同じ、ブラウン管のもののように見えます。
それと同時に、一人の男性が踵を返して撮影者の方へと歩き出しました。もう一人の男性も続きます。顔から察するに、二人とも50代くらいでしょうか。
しかし、次の瞬間、歩いてくる二人の後方に、木々の上から何か黒い物が落ちてきました。
4~5mほどはあるのではないかという、丸い物体でかなりの大きさです。
Yさんは巨大な熊か何かかと思いつつ、映像に釘付けになりました。
大きさ的に考えて、落ちてきた時にかなりの音がしそうですが、前を歩く二人は全く気付く様子がありません。
二人が撮影者に近づいてくるのと同時に、その丸い物体…球体もゴロゴロと転がって近づいてきます。
熊ではない…しかし、何らかの意思を持って動いている。Yさんは確信しました。
球体はゆっくりではあるものの、前を歩く二人との距離を徐々に縮めていきます。
そして、球体がある程度近づいてきた時、Yさんはあることに気付きました。
転がっているため、映像に映る球面は逐一変わりますが、全体が黒というわけではなく、一箇所だけ白い部分があるのです。
そして、球体と二人との距離がほぼ無くなった頃、その白い部分がちょうど正面に来ました。
それは歯でした。唇のようなものは無く、むき出しの歯。巨大な、そして獣のようなギザギザの歯。
ただ、それ以外は真っ黒で目も鼻も確認できません。
そして次の瞬間、球体の歯が上下に開きました。
口と思われる部位の奥が見えましたが、そこに舌などはなく、ただただ真っ暗でした。「漆黒」という表現が一番しっくり来るかと思います。
"いりがあね"
突如としてテレビから音が響き渡ります。
これまで音声は聞こえていなかったために、思わずYさんもビクッとしてしまいました。
状況からして、球体が発した音…いや声なのかと思いますが、それはまるで老人のようにしわがれた声でした。
そして、その声と同時に男性二人はえっという表情で後ろを振り返りました。
が、次の瞬間、映像は全面赤色となり何も見えなくなりました。
しばらく茫然と映像を眺め続けていたYさんでしたが、次第にその赤色が血しぶきのような気がしてきて恐怖とともに吐き気を催し、テレビから後退りながら転げるようにして山を駆け下りました。
あの球体が今にもYさんの頭上にも落下してくるのではないか、という恐怖で山を完全に下りるまではろくに上を見ることもできませんでした。
山から出たYさんですが、警察に通報すべきなのか、でも通報したところで信じてもらえるのかと迷った挙句、ひとまず山の所有者である親戚へ電話をしました。
頭がおかしくなったと思われるのを覚悟で、今見たことをありのまま話したところ、親戚から返ってきたのが冒頭の言葉でした。
「当然だげんども、山ってのはオラたちが産まれる前からある。だげん、オラたちの知らねえもんだって絶対にいるんさ。山を侮るでねえぞ」
親戚はそれ以上語ることはなかったそうで、Yさんは今すぐにでも山の管理を変わってくれる人を探しているとのことです。