ほのぼの子育て日記

子育て日記中心、時々怪談

怪談「迫りくる足音」

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 お疲れ様です。
 暑い毎日が続きますね…熱中症警戒アラートも毎日のように発令されています。ということで、少しでも涼しくなるよう、本日は怖い話第二弾を投稿します。


 これは俺が大学生の頃の話。
 季節は確か1月で、平地でも少し雪があったのを覚えています。その日の俺は午前中しか講義が無く、仲の良い男友達2人(名前はKとYとします)と昼飯を食べていました。当時付き合っていた彼女の話などで盛り上がっていましたが、ふと3人ともこの日は午後の講義が無いことに気付きました。
 せっかくならどこかへ出かけようとなりましたが、大学生の我々には車などなく、自転車のみです。おまけに冬ということもあり、寒い中自転車で移動するのは少し気が引けます。
 その時、Kが提案しました。


「それならレンタカーで出かけようぜ」


 幸いにも3人とも免許は持っており、誰でも運転は可能です。しかも、午後は予定もなし。そうなると、行動力だけはあるのが大学生。すぐにレンタカー屋へ電話し、空いている車があるかどうか確認します。
 結果、コンパクトセダンが1台空いているとのことで、レンタカー屋へ直行。提案からものの30分ほどで車をゲットしました。
 自転車しかない大学生にとって、車は快適そのもの。午後は、高速を使って隣県まで行くなど、とにかく走り回りました。そして日も完全に暮れたころ、Yが言いました。


「なあ、せっかくなら肝試しに行かねえか?」


 季節的には外れていますが、車をゲットして気分上々のKと俺は二つ返事で賛成しました。とはいえ、バリバリの心霊スポットに行くのは少し気が引けます。そこで、大学から少し離れた山奥にある湖に行ってみようということになりました。


 隣県のラーメン屋で夕食を済ませ、高速を使って大学のある市内まで戻ります。湖に着いたころには夜10時をまわっていました。
 その日は月あかりも明るく、照らされた冬の湖には一面氷が張ってその上にうっすらと雪が積もっており、とても幻想的でした。3人でしばしその光景に見とれた後、肝試しに来たことを思い出して少し周辺を歩いてみようということになりました。


 山奥で、しかも深夜ということで、自分たち以外に人は無し。静寂に包まれた湖沿いを男3人で歩きます。時々他愛もない話をしながら歩いていると、少し先に小さな木造小屋が見えてきました。近づいてよく見てみると、小屋の窓ガラスは割れ、中は木材や農工具などが散乱していました。どうやらもう使われたいない小屋のようです。入口もドアが外れ倒れており、もはやドアの体を成していません。
 我々は勝手ながらもそこから中へ侵入し、Yが「もしかしたら心霊写真が撮れるかも♪」と期待しながら携帯で数枚写真を撮るも、ただ月あかりが差し込む廃墟小屋が写るのみでした。半分がっかり半分安堵で3人とも小屋を出て、これ以上先へ行っても何も無いだろうということで車の方へ引き返しました。


 ところが、ここで奇怪なことが起こります。帰りは疲れもあってか、3人とも携帯を見ながら無言で歩いており、枯れ葉を踏みしめる足音だけが聞こえていましたが、自分たちとは反対方面から、つまり正面からこちらへ向かってくる足音がするのです。他の2人もそれに気づいたのか正面を見て目を凝らすも人影は見当たりません。足音から察するに、相手の人数は恐らく1人かと思われますが、姿は全く見えないのです
 3人ともほぼ同時に立ち止まります。こちら側の足音は無くなりましたが、やはり正面からはザッザッという枯れ葉を踏みしめる音が聞こえてきます。Yが小さな声で囁きました。
「なあ、前から人来てるか…?」
 Kと俺はほぼ同時に「見えない」と答えました。つまり、ただ単に俺の位置から人の姿が見えないわけではなく、3人とも相手の姿は見えないのに音だけは感知しているのです
 全身から一気に血の気が引きました。ただ、そうこうしている間にも足音はこちらへ近づいてきます。我々は顔を見合わせ、近くにあった大木の影に隠れて様子を伺いました。


 ザッザッと足音が近づき、ついに(音的に)我々の正面を通過し小屋の方へ向かっていきましたが、それでも姿を確認することはできません。ただ、地面の枯れ葉は順に動いており、"見えない何か"がそこを歩いていることだけは分かりました。ハリーポッターに出てくる透明マントを被って歩いたらこんな感じだろうか、と恐怖心を抱きながらもその時考えたのを覚えています。


 しばらく3人とも無言で動けないまま様子を見つめていましたが、足音が聞こえなくなるくらい遠ざかると、「今だ」というYの発声と同時に、ダッシュで車まで戻りました。
 Kが運転席、俺が助手席、Yが後部座席に座り、急いで車をスタートさせます。こういった展開では車のエンジンがかからなくなる話が多いですが、幸いにもそういったことはありませんでした。Kの運転で山道を駆け下りていきます。


「何だったんだ、あの足音」

湖から離れていく安堵感からか、Yが口を開きます。
「人いた?見えなかったよな?」

Kも続けます。


 その後3人で件の足音に関する議論を車内で続け、車が下り坂のカーブに差し掛かったその時。キキッと車がスリップし、車の進行方向が変わってしまいます。そして車が向かうのは、反対車線先のガードレール切れ目の崖。助手席の俺はもちろん、後部座席のYも転落を覚悟しました。が、寸前でKがハンドルを切り、何とか転落を免れて道路真ん中あたりで停車しました。
「あっぶねー!!」Kが言い放った直後、


「チッ」


 という舌打ちが車内に響き渡りました。しかもそれは我々全員に聞こえたようで、皆で顔を見合わせます。

 普通、舌打ちというのはそこまで大きな音を出すのは難しいかと思うのですが、その舌打ちは車内に、そして全員の耳元でしたかのようにはっきりと聞こえたのです。もちろん、3人の中でその時舌打ちした人間などいませんでした。我々は恐怖に駆られ、誰も言葉を発することはできなくなってしまいました。
 その後は全員無言のまま無事山を下り終えましたが、あれ以来どうも肝試しに行く気にはなれません。