ほのぼの子育て日記

子育て日記中心、時々怪談

怪談「林の先には」

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 お疲れ様です
 今回は久々に怪談、というか不思議なお話を投稿します。俺の同僚であるY君が小学生の時に体験したお話です。


 Y君の家は田舎町にあり、当時は家の周りに畑地が広がっていて、人家はポツポツと数軒あるのみ。そのため、子どもの頃は弟と畑地で虫を捕まえたりと遊び放題だったそうです。
 夏休みのある日のこと、いつものように弟と近所の畑地で虫捕りをしていると、弟がふいに言いました。


「兄ちゃん!今日はあそこを探検してみようよ!」


 弟が指さす先には小さな林がありました。そこは、畑地の中にポツンとある栗の木の林で、面積的にもそんなに大きくはありません。家からそんなに距離があるわけではないのですが、鬱蒼とした木々が気味悪くて、何となくY君はそこに入ったことはありませんでした。ただ、“探検”というワードは少年心をくすぐるものです。


「よし!行ってみるか!」Y君は弟と二人で林へと向かいました。


 数分で林の入口に到着しましたが、相変わらず鬱蒼とした木々が茂っており、昼間にも関わらず林の中にはあまり日差しが届いていません。入口横には見たこともない食虫植物のような枯草があり、そこだけアマゾンの奥地であるかのような錯覚を覚えました。Y君は、つい足がすくんでしまいましたが、弟の前でかっこ悪い兄の姿は見せられません。


「入るぞ!」弟を従え中に踏み込みます。
 林の中は暗く、花粉なのか白い粉状のものが時折宙を舞っていました。日が当たらないせいか、地面も湿り気味で、歩き心地もあまりよくありません。


「ちょっと気味悪いね…」弟は既に怖がっているようです。
「カブトムシとかいるかもよ」そんな弟に、兄の威厳を見せつけてやろうとY君が強がって言います。
 ただ、実際にはカブトムシを探す気など毛頭なく、早くこの気持ち悪い林を出たいという一心で歩き続けました。幸いにも小さな林であったため、割とすぐに反対側の出口が見えてきました。太陽の日差しも近づいてきます。ほっとしたY君でしたが、出口の先を見た途端、足を止めました。後ろを歩いていた弟がY君にぶつかります。


「いって!どうしたの急に?」弟が不思議そうにY君を見上げます。Y君はとっさに弟の口を塞ぎ、林の先を見るよう指をさしました。
 林の先は、ちょっとした緑地になっており、芝生ほどの草が生い茂っています。が、その緑地の上に人が10名ほど輪になって座っていました。正確には、“人の形をした何か”と言った方が良いのかもしれません。


 それらの見た目は、全員が白い病院着のようなものを着ており、背格好も皆同じほどに見えました。ただ、明らかに人と違うのは首から上で、顔のパーツは一切なく、いわばのっぺらぼうみたいなもの。顔の形も落花生のように細長く、髪の毛は一切ありません。それらが10体、胡坐をかいて何か話をしています。
 Y君と弟は、顔を見合わせた後、あまりに信じられない光景に息を吞んでそこを見つめていました。あんな生き物はマンガやアニメでも見たことがありません。恐怖心よりも好奇心が勝り、話声に聞き耳を立てます。甲高い声の者、低い声の者といますが、いずれも日本語ではない言語で、内容が全く分かりません。

 しばらくその場で聞き耳を立てていましたが、ふいにY君は早くここを去らなければいけない気がして、弟に帰るぞ、と目と指で合図しました。弟も頷き、2人でその場をあとにしようと踵を返したその時、
「「うわあああああ!!!!!!!!!!」」2人揃って悲鳴を上げてしまいました。


 何と自分たちの後ろ3mほどの位置にもう一体“それ”が立っていたのです。しかも、先ほど見た10体は座っていたので分かりませんでしたが、立っている“それ”は背が高く、恐らく2mはあったかと思います。
 悲鳴を上げたことにより、後ろのそれらも2人に気づいたらしく、「縺薙・繝ェ。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ」と謎の言葉を発しながら立ち上がりこちらへ向かってきます。Y君は弟の手を引き全速力で走りました。


「繝。繝・そ繝シ繧ク縺ァ縺!!!!!!」相変わらず訳の分からない言語が後方から聞こえてきましたが、林の入口、枯れた食虫植物の横を通り抜けた時点で声はパタリと止みました。  

 ただ、声が止んだとはいえ、Y君と弟は追われているかもしれないという恐怖感から振り返らずに家まで猛ダッシュで走り切りました。


 家の玄関に辿り着き、ようやく後ろを振り返った時にはさすがに何もいませんでしたが、Y君の心臓はドキドキのままで、呼吸を整えるのがやっとです。弟も半ベソをかきながら息を切らしていました。
「あ…あれ…何だったんだ」しばらくしてから、やっとのことで声を絞り出したY君。
同時に、弟も怖かった怖かったと連呼し、ついに本格的に泣き始めてしまいました。


 その夜、仕事から帰ってきた両親に林での出来事を話すも、当然信じてはもらえず。両親曰く、あの林にそんないわくつきの噂は聞いたことがないとのことでした。あの生き物は何だったのか、この世のものではなかったのか、今でも謎のままですが、Y君はそれ以来その林には近づかず、この前帰省した際には木が伐採され林は宅地へと変わっていたそうです。
 もしかしたら、あの夏の日だけ、林の先が別の世界に繋がっていたのかな、Y君はそう言って話を締めくくりました。