一週間お疲れ様でした
最近は育児の話題ばかりでしたが、久々に怪談を投稿します。
Fさんは地方の大学に通う大学生。ある夏の夜のこと、数人の友人と宅飲みをしていると、蒸し暑いし皆で肝試しでも行こうという話になりました。
時計を見ると、時刻は22時頃。メンバーはFさんとHさんとTさんの男3人です。
皆でどこかいいところは無いかなとウキウキで調べると、Hさんが「いい物件見つけた!」とスマホ画面を見せてくれました。
そこは、ここからそう遠くはない住宅街外れの廃屋で、過去に訪れた人も何名かいるようで、複数件のブログ記事が見つかりました。
「誰かに肩を叩かれた」や、「誰もいないはずなのに声が聞こえた」など、いずれもありがちな体験記でしたが、酔っ払いの3人にはピッタリです。
遠くないとはいえ、徒歩で行けば30分ほどかかる場所であり、(本当はダメですが)皆で自転車で行くこととしました。
明日の講義やサークルでの恋愛話などに花を咲かせながらだらだらと自転車を走らせましたが、15分ほどで目的地に到着しました。
その廃屋は、確かに住宅街から少し離れたところにポツンとあり、周囲には耕作放棄地と思われる雑草地が広がっています。ここの住人が持っていた畑でしょうか。
家は2階建てで、ところどころ外壁が剥がれて中が見えています。窓もほとんどが割れていました。また、特に門もないため、簡単に敷地内に入ることができます。
「おー!雰囲気あっていいねえ」と嬉しそうなTさん。
「だろだろ?俺が見つけたんだからな」と得意げなHさん。
酔いもあってか、2人はずんずんと玄関まで進んで行きます。Fさんは若干ビビりながらも2人についていきました。
玄関には、木製の戸があるものの既に外れており、ただ立てかけてあるだけのようになっています。前に来た人たちが出入りした後、立てかけておいたのでしょうか。3人で戸をどかして中に入っていきます。
中は当然のことながら真っ暗ではあり、スマホのライトを頼りに進んで行きます。意外にも廊下や各部屋は所々にモノが散乱してはいるものの、思ったよりも散らかってはいませんでした。
ただ、2階に通じる階段は、途中で天井が崩れており上に上がることはできません。
仕方なく、3人は1階を散策することにしました。居間と思しき場所やトイレ、風呂場などを順に見ていきますが、特に誰かに肩を叩かれたり、あるいは3人とは別の人物の声がするといった事象は起きません。
「なんか意外と普通だな」と、つまらなそうなHさん。
キッチンだったであろう箇所も見終わった時、Tさんがその奥に襖を見つけました。フローリングであるキッチンとの境目にしては少し不釣り合いな襖。
ちょうど飽きてきた3人は好奇心をくすぐられ、その襖を開けてみました。襖の向こう側は4畳ほどの和室となっていましたが、Fさんはここである違和感に気付きます。
床をライトで照らしますが、他の部屋と異なり、一切モノが散乱していないのです。モノどころか、ライトで照らす限りゴミ一つ見つかりません。まるで誰かが定期的に掃除しているかのように…。
その時、
「うわあああっ!!!!!!」とHさんが大声を上げました。
TさんとFさんは驚き、Hさんに目を向けます。Hさんは「あ、あれ見て…」と自分のライトの先を指さしています。
2人もつられてそれぞれライトを向けると、思わず驚きで声を上げそうになりました。
そこには、茶髪の女性が…いえ、女性型のマネキンが置かれていました。よくデパート等で見かける、目と鼻の形だけあしらわれたあのマネキンです。
頭には短髪の茶髪ウィッグ、緑色のファーコート、黄色のロングスカートを身に着けたマネキンが、畳の上に不自然に置かれていました。
また、和室同様にそのマネキンも埃等をかぶることなく、比較的綺麗な状態であり、室内にそれ以外のモノは一切ありません。
「な、なんでこんなとこにマネキンが…」とTさん。ほか2人も同じ感想でした。
気味が悪くなり、3人は足早にその場をあとにしました。帰りも自転車で並走はするものの、「何だったんだろうな」「気味悪かったな」と誰ともなくぽつりぽつりと言うのみで、皆言葉が少なめでした。
酔いもすっかり醒めてしまった3人。下がったテンションを戻すためにも飲み直そうという話となり、Fさんのアパートへ戻ってきました。
部屋が2階であるため、階段を上ろうとしたその時、先頭を歩いていたTさんがはたと足を止めました。
「どうしたんだよ?」と訝しげなHさん。
FさんもTさんの方を見ますが、その表情は階段の上を見つめたまま恐怖に歪んでいます。Fさん、Hさんは同じ方向へ視線を向けました。
そこは階段の踊り場で、一人の女性がこちらに背を向けたまま立っていました。微動だにせず突っ立ったままです。
それだけでも十分不審ですが、目を疑ったのはその恰好。茶髪に緑色のファーコート、そして黄色のロングスカートという、まさにあのマネキンと同じ姿だったのです。
季節は夏ですから、この時期にファーコートを着ているだけでも明らかに不自然です。
3人で立ち尽くしていると、女性の首が動き始めました。ゆっくりとですが、こちらを振り返ろうとしています。
それを認識した瞬間、3人は一斉に外へと駆け出しました。
"顔を見てはいけない"3人ともなぜかその一心でした。慌てて自転車に乗り、少し離れたファミレスで朝まで過ごしました。
あの女性は廃墟で見たあのマネキンだったのか、完全に振り返った顔はどんな表情をしていたのか、謎は多いですが、少なくとも3人が同時に同じものを見ているので見間違いではないはずです。
幸いなことに、それ以降3人の周りで不気味なことは起きていませんが、Fさんは念のため住むアパートを変えたとのことでした。
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