ほのぼの子育て日記

子育て日記中心、時々怪談

ちょっと怖い話「同居人」

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 お疲れ様です
 本日は、ちょっと怖いような怖くないような、そんなお話を投稿します。


 Dさんは都内在住の会社員。2階建ての古びたアパートに一人で暮らしていました。築年数も約50年という木造のアパートで、歩くたびにギシギシと床が音を立てる、今にも壊れそうな建物でした。

 そういったこともあってか、住人はDさんと管理人のみ。Dさんが2階の一室に住んでいて、1階の角部屋には管理人が一人で暮らしていました。その管理人も結構な高齢であり、階段を上がることも困難なため、いつも集金等はDさんの方から管理人の部屋へ出向いて支払っているほどでした。


 ただ、家賃は東京23区内とは考えられない程に安く、新卒で働き始めたばかりのDさんはそこに惹かれてこの場所を選んだのでした。引越しを手伝ってくれた両親からは「もうちょっと綺麗なところの方が…」と言われましたが、別に住むのは自分だけだし最低限の設備さえ揃っていればDさんは満足でした。


 さて、こういった安い古いのアパートに付き物なのが、"お化け"の話です。Dさんの部屋にも漏れなくそういった「気配」はありました。「気配」というのも、Dさんには霊感は無く、そういった類のものは一切見たことはありません。

 ただ、住み始めた頃から、寝ていると部屋の中で足音がしたりとか、物がいつの間にか動いていたりとか、洗面所の電気がいつの間にか点いていたりとか、おかしな出来事は起こっていました。が、こんな建物に住めるだけの気性を持つDさんです。特に気にも留めず"同居生活"を続けていました(電気だけは電気代が嵩むのでやめてほしかったそうですが)。


 そんなある日のこと。夕飯にコンビニでおにぎりを買ってきたDさん。買い物をしている時は、空腹もあって大量におにぎりを買い込みましたが、いざ食べ始めてみると案外早く空腹が満たされてしまいました。

 食べかけのおにぎりは明日の朝ごはんにすればいいかと皿に乗せてラップをかけます。冷蔵庫に入れると、米がパサパサしてしまうし、季節も夏前だからいいだろうとそのまま居間のテーブルの上に置いてその日は就寝したそうです。


 翌朝、起きて朝食を食べようとテーブルの上を見たらビックリ。何と、皿の上のおにぎりが何者かに食べられてしまっているのです。泥棒かと思いましたが、玄関や窓のカギも掛かっており、他に荒らされた形跡はありません。古い建物なので、ネズミとかの可能性も考えましたが、皿の上には米粒一つ残っておらず、綺麗に食べられています。かけていたサランラップは皿の横に置かれていました。

 もしかしたら自分が寝ぼけて食べてしまったのかもと思い、その日は特に気にしなかったようですが、翌週にも翌々週にも、残してテーブルの上に放置していた食べ物が、朝には綺麗さっぱり無くなっているという出来事がありました。いずれの時もやはり玄関や窓のカギは閉まっています。


 こうなると、さすがのDさんも気にするようになり、もしかしたら"同居人"の仕業ではないかと疑うようになりました。そこで、ある実験を試みます。

 夕飯後、敢えてテーブルの上におにぎりを残しておき、自分は電気を消して近くに横になり眠ったフリをします。内心ちょっとドキドキしながらも目を閉じて眠ったフリを続けていると、深夜トタトタと足音が聞こえてきました。足音からして子どものように思えます。音は台所から居間のテーブル近くまで来て止まりました。サランラップを剥ぐ音がします。

 テーブルの近くで横になっているDさんは恐る恐る薄目を開けます。まず見えたのはテーブルの脚。そして、その向こうに、性別までは分かりませんが、恐らく子どもであろう足首が見えました。まさか霊感ゼロの自分が"見える"とは思わず、驚いたDさんですが、次の瞬間猛烈な眠気に襲われ、本当に寝入ってしまいました。


 翌朝、起きるとやはりおにぎりは綺麗さっぱり無くなっていました。施錠はしっかりとされています。Dさんはもしかしたらこれが座敷わらしってやつなのかもしれないと考えるようになりました。ネットで調べると、座敷わらしは古い家に住むことがあるそうです。

 家という概念にアパートも含まれるのかは謎ですが、元々、彼(彼女?)はこの部屋に住み着いていたところ、自分が来たことで肩身の狭い思いをさせてしまっているのではないかと少し申し訳なく思うようになりました。


 そこで、Dさんは毎日夕飯を少し残してテーブルの上に置いたまま寝るようにしました。暑い夏は一応腐敗も考慮し、残していくのをお菓子等に替えたりもました。翌朝には大抵綺麗さっぱり無くなっていましたが、パンやピザは残す傾向があったりと、座敷わらしでも好き嫌いはあるのだな、と少し微笑ましくもありました。


 そんな毎日が一年近く続いたある夜のこと。いつものように、テーブルに夕飯を残し、居間で眠っていると、誰かに肩を揺さぶられて起こされました。寝ぼけ眼で周りを見渡すも誰もいません。何だ気のせいか、と二度寝しようとした時、少し焦げくさい臭いが漂ってくることに気付きました。急いで電気を点けるも部屋の中に異常はありません。臭いの元は外からのようです。


 Dさんはパジャマ姿のまま玄関の戸を開けると、なんと1階の管理人の部屋が炎に包まれていました。火の手は徐々に広がり、2階にも到達しそうな勢いです。幸いにも、1階へと降りる階段は、管理人部屋とは反対側であったため、Dさんは炎に巻き込まれることなく、階下へ避難することができました。

 当の管理人も既に外へ避難しており、Dさんを見つけると「ああ良かった…声を掛けようにも階段があって…申し訳なかった」と心底安堵したようで、Dさんに縋りながら泣き崩れてしまいました。深夜ではありましたが、徐々に野次馬も集まってきて、誰かが通報したのかその内に消防車もやってきて消火活動にあたり始めました。


 後から知ったのですが、火事の原因は管理人のたばこの不始末。古い木造のアパートなので全焼してしまい、身一つで逃げ出してきたDさんは金銭面やら色々と不安を覚えましたが、燃え跡から携帯やらカード類やらが奇跡的に無傷で見つかるなど幸運も重なり、思っていたよりは苦労しなかったようです。

 それよりも何よりも、あの火事の晩、誰かが自分を揺すり起こしてくれなければ今頃Dさんはこの世に存在していなかったかもしれません。


「あの晩、自分を起こしてくれたのはたぶん"同居人"だと思うんだ。あいつも無事避難できてればいいなあ」


 新居に移ったDさんは、今も夕飯を少し残してテーブルに置いたまま寝るのだといいます。ただ、朝起きた時に、それが無くなっていることは今のところありません。