怪談「白い腕」

　

　梅雨は明けませんが、暑い毎日が続きます。
　こんな時は、ヒヤッとする話で涼むのも良いかもしれません。ということで、本日は子育て関係ありませんが、俺の実体験に基づく怖い話をお届けしようと思います。実体験に基づくものなので、特にオチ等があるわけではありませんが、あらかじめご承知おきを。

　俺が小学校の頃の話です。皆さんの学校もそうだったかもしれませんが、高学年になると“合唱コンクール”への参加というものがあります。
　俺のいた学校は、先生が熱心だったということもあり、朝の始業前や放課後など、市内の他校よりひときわ練習に力を入れていました。自分の学校に在籍する音楽教師に加え、県内で有名な音楽の先生にも来てもらって厳しい指導をしてもらっていたほどです。平日のみならず、土日にも練習があるくらいでした（部活かよ）。
　その甲斐あってか、我が校は市内のコンクールで優勝し、秋に開催される県大会へと進出しました。
　県大会当日までも、練習はひときわ熱を帯びて続き、外部講師による厳しい指導も耐え抜いた俺たちは、自信を持って県大会に臨みました。
　県大会の会場は、２つ隣の市の、大きなホールでした。バスで会場入りし、市内大会よりも大きな会場に気圧されながらも、皆一丸となって歌い切りました。
　そして、肝心の結果はというと・・・・・・

　・・・・・・・入賞すらできませんでした・・・とほほ。。。

　県大会のレベルの高さを痛感しつつ、学校に帰る前に皆で集合写真を撮ろうということになりました。ホール入口前に整列し、バスの添乗員さんにカメラシャッターをお願いして、先生・児童全員が写った集合写真を１枚撮ったのです。

　後日、コンクールのことも記憶から薄れ始めた頃、「この前のコンクールの集合写真が届いたので、欲しい人は別途注文するように」と先生から指示があり、教室の掲示板に見本の写真が１枚貼られました。
　その写真を見た時、俺は背筋が凍ったのを今でも覚えています。当時、俺はクラスの中でも身長が低かったこともあり、集合写真では一番前に中腰で立っていたのですが、ちょうど自分の心臓のあたりから白い腕が一本とび出していたのです。
　最初は、自分の腕かなと思ったのですが、その写真では俺は両腕とも前に出してピースをしています。対する白い腕は、ピースではなく、手を広げて“パー”の形。ジャンケンでいえば俺の勝ちですが、そういう問題ではありません。
　後ろの子の手かな？とも思いましたが、俺の後ろの子は両手を自分の顔の位置まで上げてポーズをとっており、やはり違います。しかも、腕が出てきている位置はどう見ても俺の心臓部分。説明がつきません。
気持ち悪いという思いもあり、結局俺はその写真を注文しませんでした。

　ただ、この話はまだ続きます。
　それから月日が経ったある夜のこと。当時、俺の家族は、父、母、弟、俺と４人同じ座敷部屋で寝ていました。座敷部屋の隣には俺と弟の勉強部屋があり、襖で仕切られています。たまに、父が飲み会で帰りが遅い日などは、父のみ隣の勉強部屋で寝ていました。
　その夜、俺は家族の中で一番勉強部屋寄りの位置で寝ていましたが、深夜にふと目を覚ましました。その時、何気なく自分の足元に目をやると、隣の部屋との間の襖がわずかに開いており、そこから白い腕が１本にゅっと延びてきて俺の足首を掴んでいたのです。
　隣の部屋も当然電気は消されているので、真っ暗な空間から、異様なほどに白い腕が１本出てきている光景は今でもはっきりと覚えています。
　ただ、この時の俺は寝起きで頭がぼーっとしていたこともあり、「ああ、父は今日飲み会だから隣の部屋で寝てて、きっと悪戯で俺の足首を掴んでいるんだな」くらいにしか思わず、そのまままた眠りについてしまいました。
　翌朝、起きた時に、実は父は飲み会などではなく、４人とも同じ座敷部屋で寝ていたことを知り、また背筋が凍る思いをしました。しかも、うちの家族は皆どちらかというと地黒であるので、あんな白い腕の持ち主はいません。俺は怖くなり、翌日からは寝る位置を毎日真ん中にしてもらいました。
　それ以降、特にあの白い腕に関するエピソードはありません。あの集合写真に写っていた腕と、足首を掴んでいた腕は同一だったのか、そもそも深夜に見たあの腕はただ俺が寝ぼけていただけだったのか、真実は分かりません。それでも、結局購入しなかった例の集合写真も、深夜に見たあの光景も、今でも脳裏にはしっかりと焼き付いています。
　自分の中での解釈ですが、実はあの集合写真を見た後、怖くなって家のお仏壇にたまに線香をあげてお参りをするようにしました。それが功を奏して、俺の中にいたあの腕は外に出され、深夜に足首を掴んでいた時が自分に縋りつく最後の姿だったのかな、と思うようにしています。
　皆さんも、何か怖い話をお持ちでしたら教えてくださいね。

ページをめくってゾッとする　1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ]